これは'70年代東映風の人情コメディと'70年代香港クンフー映画の合体だ!(町山智浩)
『神様の愛い奴』『ラッパー慕情』の藤原章が描く人情活劇ミュージカル。
港町。ダンプねえちゃんは将来の夢もなくぼんやり暮らしてた。家業のラーメン屋も
手伝わないので父からたっぷり怒鳴られる。この小さな町に、世界ケンカ大会の
チャンプがやってきた。ホルモン大王である。男気あふれるホルモン大王に一目
惚れするダンプねえちゃん。しかし粗暴な一面があり、嫌がるダンプねえちゃんを
レイプ。心と肛門を傷つけられたが、人情あふれる医者に助けられる。医者は武道
の達人でもあり、ホルモン大王に復讐するため猛特訓がはじまった…
と、読んでてバカがうつりそうな内容だが、大阪で1ヶ月間、181作品が参加した
インディーズ映画の祭典“シネドライブ2009”でグランプリを受賞。
前作の『ヒミコさん』で可憐なレディを演じた宮川ひろみが、今度は品性下劣であり
ながら肝の太い女を熱演。
恋人役に井口昇監督作でお馴染みのデモ田中、武道の達人に評論家の切通理作、
ガンコ親父を脚本家の高橋洋が好演。漫画家の花くまゆうさくも幻の柔術を披露する。
音楽は(ピラニア楽団)。主題歌を唄う室田晃が、父である日出男の愛した
ピラニア軍団から名づけた。
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王道の映画の血
(
富岡邦彦
プラネット+1代表 )
『ダンプねえちゃんとホルモン大王』評
この作品の希少性はなんと言ってもアフレコによる映画製作です。最近のインディペン
デント作品あるいは自主制作の映画はほとんどがDVで撮影される、あるいは8mmで
撮影されたものでも仕上はDVであるため当然のように「同録」つまりは撮影現場で
同時録音をするのが当然となっています。仕上がった作品はちゃんとリップシンク
(音声と映像が一致)しており、きわめて自然、というか現実に限りなく似ているのです。リアルだな?
そうこいうのあるよね。というわけです。しかしながらかつて映画はそうだったろうか?と考えてみると、
少なくとも映画の面白さは、
現実に似ているということがそれほど重要な要素ではなかったはず。
面白かった頃の70年代の香港映画やあるいはイタリア映画はまずはアフレコが当然の
ように荒っぽかった。平気で口と音声はあっていなかったというものです。
ヴィスコンティやフェリーニさえ堂々とアフレコで撮影しているのです。まさに現実に似て
いない物語を語る場合にこのアフレコは有効ではなかったろうか?
藤原章のこの堂々たるアフレコはまさに現実のリアルなコピーをなぞった上に映画が
フィクションがあるのではなくて、基本的に映画の面白さを追求する「フクションの力」を
信じているからに違いありません。
藤原章がきわめて即興的な映画製作をすることは知られていますが、それはドキュメン
タリータッチの生々しさを狙ってのことではない。どこか地方の風景からあるいはどこか
のドライブ・インで見た人々が藤原章を刺激して、独自の物語のある風景を生み出すの
です。これはかつての映画製作のイマジネーションの根源ではなかったろうかと考えざる
を得ません。『ダンプねえちゃん』は一見、かつての東映プログラムピクチャーに似ている
かのように思えます。それは確かに嘘ではないでしょう。しかし私は、藤原章はあのいかが
わしい誇大妄想家のフェデリコ・フェリーニにさえ似ていると言いたい。真面目な若者が撮る
生真面目なインディペンデント映画とはまったく別の次元に藤原章はいるのです。まずは
その事を自覚してからでないとこの作品の面白さにはたどり着けません。これは決して
いわゆるバカ映画でもパロディ映画でもありません。あなたたちがまだ体験していない
王道の映画の血が巡っている貴重な「娯楽映画」なのです。
私はフェリーニの〜 というように今後、藤原章の〜 とその作品を呼ぶことを奨励します。
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「ダンプねえちゃんとホルモン大王」 監督:藤原章 (2009年/カラー/110分/シネスコサイズ)
■スタッフ■
監督・脚本……………
藤原
章 音楽……………………ピラニア楽団
■キャスト■
ダンプねえちゃん
…
宮川ひろみ
ホルモン大王
………
デモ田中
ケンジ
………………
坂元啓二
ポンコ
………………
徳元直子
お兄ちゃん
…………
酒徳ごうわく
大先生
………………
切通理作
看護婦
………………
朝生賀子
ゴリラ人間……………
有馬
顕
佐藤次郎
……………
花くまゆうさく
佐藤三夫
……………
村田卓実
労務者
………………
渋谷拓生
不幸な兄
……………
浦島こうじ
不幸な妹
……………
吉行由実
陳さん
………………
篠崎
誠
お父ちゃん
…………
高橋
洋
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